日本刀入門   

                   土庄町文化財保護審議会  審議委員 丹生寿男

 日本刀は日本が世界に誇る鉄の文化財です。

国指定の重要文化財が782口、さらに上位の国宝が122口も指定されています。元々は武器として製造され「折れず」「曲がらず」「よく切れる」と機能的にとても優れていますが、それ以上に美術的に素晴らしいものです。しかし、その良さが一般の方に理解されていないことを、非常に残念に思います。

私は刀が美術品として、いかに素晴らしいかを多くの人に知っていただきたいと考え、香川県内で開催される「名刀展」にはボランティアで解説員として参画してきました。実物を前にしての解説や質疑応答には比較的慣れているものの、今回は協会報の読者の皆様にどこまでお伝えできるか、わかりませんが述べてみます。

まず、魅力の一つは姿です。日本刀は平安時代末期に完成されたと云われています。この頃は反りが深く細身で優美な姿をしています。次の鎌倉時代は身幅が少し広くがっしりとしています。南北朝時代はさらに身幅が広く、寸法も切先も大きく伸びます。そして実際に博物館等で展示しているのを見て特徴的なのは、刃を下にしている事です。これらは太刀(たち)と呼ばれます。その後、室町時代中期頃から刃を上にして腰に差す刀に変わります。桃山時代以前のものを古刀と言い、江戸時代初期から中期までのものを新刀と言います。新刀は古刀に比べて反りが浅くなります。さらに江戸時代後期のものを新々刀と言い、一見すると南北朝時代のものに似ていますが、重ねが厚くなります。明治9年の廃刀令以降のものを現代刀と言うように、時代による分類があります。逆に言うとその姿を見れば時代が分かることが多いのです。

鍛え肌も大きな魅力です。日本刀は折り返し鍛錬しているので、その手法の違いで、柾目肌、梨地肌、杢目肌、板目肌、綾杉肌等、刀身に模様が現れます。これは主に大和伝、山城伝、備前伝、相州伝、美濃伝等、製作地の違いが大きいものです。

さらに日本刀の最大の特徴は刃紋があることです。刃紋とは刀がよく切れるように、焼き入れをすることによって現れる模様です。真っ直ぐな直刃(すぐは)と乱れ刃に大別されますが、直刃にも広直刃や細直刃があり、乱れ刃は丁子刃(ちょうじば)、湾れ刃(のたれば)、互の目刃(ぐのめば)、濤乱刃(とうらんば)、簾刃(すだれば)、皆焼(ひたつら)、数珠刃(じゅずば)等実に色々な種類があり、刀工の個性や技量がよく現れ、刃紋だけで作者が判る場合がしばしばあります。

この姿・鍛え・刃紋が観賞や鑑定の見どころです。もっと言えば名刀には冴えと働きがあります。沸(にえ)、匂(におい)、映り(うつり)、地景(ちけい)、金筋(きんすじ)、稲妻(いなずま)、足(あし)、葉(よう)、砂流し(すながし)等ですが、実物を前にしなければ、説明と理解は少しむずかしいです。

次に長さによる区分を説明します。刃が一尺(30.3p)以内を短刀、一尺以上二尺(60.6p)以内を脇差、二尺以上を刀と言います。

さらに一言付け加えると刀には歴史的魅力ということがあります。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康等、歴史上の人物が所有していた刀がたくさん残っており、先程述べた国宝・重要文化財には有名武将の持物が多いようです。これは武将が持っていたから国宝なのでは無く、当時から名品は権力者が収集していたからです。




刀の外装を拵(こしらえ)と言い、金工(鐔・目貫等)、木工(鞘)、漆工(鞘塗)、染色(柄糸・下緒)、組紐(柄糸・下緒)等の総合芸術です。なお讃岐漆器の祖である「玉楮象谷」は鞘塗師の出身であり、象谷作の拵が現存しています。(土庄町指定重要文化財)

「百聞は一見にしかず」、博物館等でぜひ鉄の文化財や拵を見てください。そしてその素晴らしさを、実感してください。