令和5年7月2日(日)、前日までの大雨に開催が危ぶまれながらも、当日は暑いほどの天候に恵まれ、大西・アオイ記念館にて鑑賞会を無事に行うことが出来ました。
午前中は、まず、刀剣美術6月号の誌上鑑定の解説を行い、誌上鑑定刀に関連付けた短刀の時代ごとの見分け方についてお話をして頂きました。続いて初心者講座においては、岡山県支部交流会ということもあり、備前刀についての解説をして頂きました。「現在、日本にある国宝に指定された刀身は110口あり、その内47口が備前刀である」という説明の通り、長い時代に渡って多く作成され、さらに現存している数も多い備前刀は地金や映りなど共通する基準はあれど、実に多様な表情を持っており、改めてその魅力の奥深さに感心するばかりです。
午後からは岡山県支部の方々が到着され、交流会および鑑賞会を行いました。コロナ禍における感染拡大防止の為に中止が続き、令和元年以来4年ぶりの交流会でした。
鑑定刀は五口あり、備前刀が二口、大阪新刀が三口でした。
保存刀剣 磨上無銘
鑑定入札では「長光」や「畠田守家」に札が集まりました。
「光忠」の特徴として肌が綺麗な点が上げられますが、今回の一号刀においては際立つような肌ではないことや、丁子の高さの揃い具合が「光忠」に入れるのを躊躇った要因に挙げられるようです。
特別保存刀剣 金象嵌銘はごく最近に入れられたものだそうです。
小丁子が小詰み、映りが逆がかる。国や時代はほとんどの方が当たっていましたが、「片山一文字」まで絞りこんだのは入札の半数程でした。
特別保存刀剣 菊紋 寛文八年八月日
井上真改と改名する以前の、若い頃(38歳ごろ)の作です。
改名以後と比較すると、全体的に勢いがあり、覇気のある沸、金筋が盛んに入る刃などが鑑定を難しくしていたようでしたが、ほとんどの方が2の札までに「二代國貞(井上真改)」に札を入れていました。
特別保存刀剣 延宝七年八月日
刃文は濤乱刃と特徴的でした。匂い口が柔らかく深い。
全体的に明るいことから「照包」に札を入れた方が多かったようです。「照包」は刃中の動きが盛んで金筋・砂流しが盛んに入ることが多いため、そこが「助廣」と見分けるポイントだそうです。
重要刀剣 延宝八年八月上吉日
今回の鑑定刀の中で最も難しいものでした。
刃文は直刃で、入札ではほとんどの方が肥前刀、特に「陸奥守忠吉」に入れられました。しかし帽子の焼き方や、長い焼き出しなど、大阪新刀の特徴をよく現した一口でもあります。
三号刀から五号刀は同時代の大阪新刀で、同時に並べて見られる貴重な体験となりました。さらに鑑定刀の解説の後、肥前刀を一口見せて頂くことができました。五号刀と比較して見ると帽子の様子や匂い口が全く異なり大変勉強になりました。(大阪新刀は帽子の焼きが少々ふんわりしており、匂い口が柔らかい。肥前刀は帽子をしっかり焼き、匂い口はかたくはっきりしている。)
今回の成績上位者は次の方です。
天位 東畑 廣義 氏
地位 チャールズ・ホワイト 氏
人位 内原 敬 氏
今回の鑑賞会では岡山支部より鉄鍔を数点鑑賞させて頂きました。実際に手に取って見ることで美術館の展示では見えない鍔の側面の細かい凹凸を感じることができ、とても新鮮でした。
高松市の旧家が所有していた資料等を見せて頂いた際、古い押し型の巻物に目を惹かれました。墨で描かれた押し型を現物で見るのは初めてのことでしたので、こちらも貴重な体験でした。
皆様、熱心に鑑賞され、久しぶりの交流会とあって会員同士の会話も弾み、会場の片付けの時間が少々押してしまう程でした。
新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けがインフルエンザと同じ「5類」に引き下げられたことで規制緩和が進み、人々の行き来が盛んになってきています。油断は決して出来ませんが、気を付けるべきことをしっかりと熟し、こうして少しずつコロナ禍以前の様子を取り戻していけることを願うばかりです。
日本刀という素晴らしき文化を学ぶことができる幸運を改めて噛み締めると共に、このような機会を設けることへ尽力された多くの方々への感謝を忘れずに精進して参ります。
四国讃岐支部 富田佳世